論ずるに値しない。

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みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

胃を痛める本がついに出た

昨年、ついにみずほ銀行の新システムが稼働した。 苦節19年という長い歳月の中どのようなアプローチでここまでに至ったかをシステム開発の視点から論じた本が本書である。
# 本書の大きな章立て 本書は大きく分けて3つの内容で成り立っている。
- 新システムの特色、移行に当たり配慮した点を技術面で論じる
- 新システム導入前に発生した大規模システム障害の内容、原因、対策
- 新システム導入後の展望(頭取のありがたいインタビューつき)

本書で一番胃を痛める内容、システム障害

実はこの本で一番面白いのはここである。周囲に同案件に関わっていないからこそ笑ってみることができるというのはあるが、一番切迫感のある内容(ここだけ熱量が違う)とその後の冷静な分析は、この本の面白さの七割はしめている。
旧システムは経営統合前のシステムであり、統合時に各種データを結合したことによるもののみならず、初期設定が80年代であることからシステムの陳腐化や通信量の増大により障害が発生した(2011年3月の震災時の義援金振り込み集中によるものはこれが一因)ものであり、担当者は処理件数の上限を知らなかったためバッチ処理を夜間に行いきれないため日中にまで障害が及んでしまったことなど、システムの陳腐化と担当者の認識誤りがシステム障害を長びかせてしまったとしており、一つの必然と一つの誤りが大規模障害につながってしまうという恐ろしさを覚えた。
もう一つは経営層の決断の遅さ、システム投資を行わなかったことへの批判である。これは出版社がIT系の日経コンピュータであることからそのような論点を挙げているし、事実であるが実際問題として投資効果が視覚化しにくい分野に資本を投下するのはなかなか難しいことではある。(結果としてサンドの大規模障害により投資せざるを得なくなったのは悲劇である)
自分はエンジニアではなくどちらかといえば帳簿を見る人間であるので経営層と同じ立場に置かれたとき、システム刷新という決断を導き出せるかという点で胃が痛い思いをした。
ただし同決断は銀行などの大企業特有の社内政治が大きく絡むところではあるため、ここにしか目を向けなかった経営層を糾弾するのは当たり前ではあるが。

どこで胃をいたくするかは人次第

この本はエンジニアならシステム改修や刷新時の苦労話で胃を痛めるし、管理者であればシステム障害に当たり、解決に全力を挙げさせるため一時サービスを全部止めるというようなシビアな決断を求められたときに自分はどうするのかという場面で胃痛を覚えるという、自らのストレス耐性を図る本になっている。
このような本は自らの経験によらず同様の判断を求められたらどうするかを教えてくれる本であるし、そういう意味合いで読めなければただの胃がいたくなる本もしくは物見遊山になってしまう。心して読むべき本である。